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「三津?三津?前にも言ったが別に許してくれなくていいんだよ?不平不満はしかと受け止めるし……!」
その言葉にも三津は微笑んで首を横に振った。
「私も歩み寄りますから。あ,お茶の用意忘れてました。」
三津はしまったしまったとパタパタ広間を出て行った。それから文は桂に詰め寄りじとっとした目で睨みつけた。
「……木戸様昨日三津さんに何か要らん事言いました?今朝も台所で夫婦円満の秘訣や良い妻とはって聞かれたんやけど。」 快速瘦面
また三津が自分の身を削ってお前に尽くそうとしてるぞと目で訴えた。
「要らん事!?言ったつもりはない!!それに昨日はすぐ寝てしまって本当に三津を怒らせたりも困らせたりもした覚えは……。」
「じゃあ三津が何か深読みしたんやろね。後で聞いとこ。あと有朋,お前もう口開くな。」
入江は山縣の元へまっすぐ向かって迷い無く頭を殴った。
「でも嫁ちゃん理解したけぇ良かったやないか!」
「良くないわ。無理に木戸さんに合わせてまた三津が自分を殺すだけや。そんなんいつまで続くか分からん。」
「それは私も理解してる。ただ私が無理しなくていいと言っても変な所で頑固だからきっと無理する……。」
桂はどうしたらいいんだと頭を抱えた。
「木戸様が三津さんが自然体でいられるように振る舞うしかないでしょう。出来るとは思いませんが。」
文の言葉は本当に絶妙なところに突き刺さる。
「なるべく配慮はするけど多分そんなに傍には居られないからそこまで三津の負担にはならんとは思う……。」
でも絶対無理させないと言い切る自信がない。
「木戸さんも嫁ちゃんに振り回されとるんか。入江も振り回されとるやろ。」
「口開くな言うたやろ有朋。でもそれで言うと私は三津に振り回される事に快感を覚えたけぇ問題ない。木戸さんは苦痛みたいやから私の方が三津に相応しいと思うそ。」
入江は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。振り回されるのが快感だとか真の変態は言う事が違うなとみんなが思ったところへ三津が戻って来た。
「何で皆さん立ってるんです?どうぞ食べてくださいよ?」
「そうやな。今日もしっかり食えよ!三津さんには聞きたい事あるけぇここ座り。」
高杉は自分の側に三津を呼び寄せ座らせた。
「聞きたい事とは?」
「壬生での暮らしをもっと詳しく聞かせてくれん?狼どもの事とか。」
ここでならもう何を話しても大丈夫だろと高杉はもっと深い部分を聞きたいと言った。
「詳しく……。女中なんでやってた事はここと変わらんし一日仕事の事考えて終わってましたからねぇ……。
みんなの事で言うなら……稽古嫌いな沖田さん捕まえに行ったり。斎藤さんの部屋で寛いだり,一応土方さんの小姓も兼ねてたんで土方さんの身の回りのお世話したり。」
「その世話って言うのは下の方も……。」
口を挟んだ山縣の頭を赤禰と入江が両側から殴りつけた。その発言には三津も解せぬと口をへの字に曲げた。
「だから土方さんは私の事女として見てませんでしたって。いっつも怒鳴って拳骨ですよ?衝立一つ挟んで寝てましたけど何にも無かったですよ?」
「は?同室やったん?入江にも手ぇ出されんしその土方にも手ぇ出されん嫁ちゃんどんだけ色気ないん?」
「お前なぁ……。」
またも余計な口を挟んだ山縣の頬を赤禰がこれでもかと引っ張った。三津は色気ないのは自負してるし言われ慣れてるからと苦笑いで赤禰を宥めた。
「木戸様動揺されないんですね。あっそっか。壬生での生活は筒抜けやったんですよね。」
文の一言に桂はまぁねとだけ返してなるべく動揺を見せないように箸を動かした。心の内を見透かされたくないから文の目は見られない。
赤禰の花の横に既に一輪の花が置かれていた。どこからか採ってきたような名も分からぬ花が一輪。
「そう。毎月月命日には来るようにしちょるんやけどいつも俺より先にこうやって一輪だけ置いてあるそ。」
宮城を慕ってた女かと思ったがそれにしては一輪だけで味気ないし誰だろうといつも疑問だった。
「今日は月命日やったんですか。」 【你一定要知的植髮流程】解答植髮失敗風險高嗎?植髮痛嗎? -
「うん,命日は来月なんやけど自分の家族を死に追いやった奴に宮城さんの親族も会いたくないやろうから月命日だけ。
忘れもせん……何の因果か切腹した日が宮城さんの誕生日やった……。」
神様は意地悪な事をすると三津は思った。それから一輪の花をじっと見つめた。
「武人さんは毎月謝りに来てはるんですか?」
「そうやな……。」
自分の罪悪感を軽くしたい独りよがりなモノとは分かっているがここに来て謝り続けるしか償い方が分からない。
「この方は毎月何を伝えに来てるんですかねぇ。」
「さぁ……。」
一輪の花の主を突き止めた所で宮城を偲んで思い出話を語れるような立場にないし,顔を合わせて気まずくなっても困るから探す事はしなかった。
「私も新ちゃんが死んだ時似たような事してたんです。自分だけ生き残った償いに毎日毎日足を運んで土下座して泣いて謝ってました。
もしかしてこの方も宮城さんへ謝りに来てるのかなって。」
自分と同じぐらい宮城に償いの気持ちを持っている人物はと考えて赤禰は気付いた。
「高杉……か?」
「かなぁ?って思いました。一見そんな事しなさそうに見えますけど人一倍仲間想いですからね。ここの誰か一人でも欠けたら泣くって言ってましたし。」
そんな高杉が自分の身代わりとして仲間が死んだとなればそれは心にかなり深い傷を残したに違いないと思う。「私の勝手な予想なんでホンマに高杉さんかどうかは分かりませんよ?でもここに来る途中に摘んできた花ってのが高杉さんっぽいと言うか。」
三津はしゃがんでその花を見つめて笑みを浮かべた。
「もし高杉さんなら高杉さんの気持ちも軽くしてあげんとなぁ……。」
「……何て慰めるそ?」
赤禰もその隣りにしゃがんで手向けた花を見つめた。
「慰め……とはまた違いますかねぇ。私そんな偉そうな事出来るほどの人間ちゃうんで。
思ってる事を独り言として喋るだけです。」
ふふっと笑う三津の横顔を赤禰は黙って見つめた。それに気付いた三津はあんまり見られると照れますと俯いた。
「私は宮城さんと面と向かって目を見て話した訳やないんで全く分からへんけど,宮城さんは高杉さんを恨んではないと思います。
多分自分の命と引き換えに高杉さんに希望を託したんちゃいますかね。恨みやなくて希望を遺して逝きはったって思いたいです。」
「希望?」
「死と希望を結びつけるとか支離滅裂なんは分かってますけど……。高杉さんが生き残るなら長州の行く末は約束された。だから死を受け入れる。だからしっかり皆を引っ張れよって言ってくれたりしてへんかなぁ……って言う都合のいい話です。」
赤禰は切腹を言い渡された時の宮城の姿を鮮明に思い出した。
“赤禰悪いな。面倒な仕事ばっか遺して。出来る限りの事はしちょくけぇ後は頼んだ”
後は頼んだと言って宮城は赤禰に笑いかけた。それからせかせかと身の回りの整理を始めた。
愚痴も不満も口にせず目の前にある死を受け入れていた。
『後は頼んだ……俺は託された……。』
文句を言ったって上の決定は覆らないのを知ってるから不平不満を言わなかったんじゃない。きっとこの死も自分の役目だと受け入れたんだ。
『宮城さん……俺と高杉に希望を持ってくれとるんか?』
赤禰は墓石に手を当てた。答えて欲しい。宮城の口からそうだと言って欲しい。
『多分これからも弱音吐いたり落ち込んだりすると思うけぇそん時は夢にでも出てきて叱ってくれや。』
“は?お前の隣りにしっかり見て叱ってくれる家族がおるやろが。やけぇ紹介しに来たんやないんか”
その声にハッとした。隣りの三津を見れば不思議そうに首を傾げている。
「今……声が……。」
それと同時に頬に涙が伝っていた。三津はそっと立ち上がって赤禰の背後に回った。
「見てませんから思うままにどうぞ。」
座り込んでしまった赤禰の背中に三津は背中を預けて座り,そのまま静かに時間を過ごした。
三津はふふっと声を漏らした。
「高杉さんは凄いですね。言葉にめっちゃ力強さを感じます。」
不思議と高杉がそう言うなら違いないと思わせる力が宿ってる。
だけどそれとこれとは話が別。三津は一度深呼吸をして言葉を紡いだ。
「でもね?私は小五郎さんを幸せにして,小五郎さんと幸せになりたいんです。
私,小五郎さんに出逢う前に恋仲がいました。快速瘦面
でも死んでしまったんです。
その事から立ち直ったつもりやったけど全然立ち直れてなくて,立ち止まったまんまやったんです。
それを踏み出させてくれたのが小五郎さんなんです。
誰に何て慰められてもアカンかったのに小五郎さんは受け入れられた。だから私には小五郎さんやないと駄目なんです。」
分かってくれませんかねぇ?と少し戯けて首を傾げた。
すると高杉が大きく息を吐いた。
「何も知らんのに強引な事ばっか言ったのは詫びる。でも俺が三津さんを必要としたのは軽い気持ちからやないのは分かってくれ。
それと三津さんは桂さんだけやなくて周りを幸せに出来る人やと思う。やからもっと自分に自信持ちや。」
高杉はにっと歯を見せていつもの笑みを見せると三津の頭を力強く撫でまわした。
「わわっ!髪乱れるっ!触らんって約束はっ!?」
「これぐらい許せや!押し倒すぞ!」
「誰の三津を押し倒すって?
これで納得したか?三津は私の一部だ。欠けさす事は許さんからな。」
二人の背後に現れた桂は高杉の耳を掴むとこれでもかと力任せに引っ張った。
「いでぇぇぇ!!!馬鹿力!!!盗み聞きしちょって質の悪いっ!!!」
「お前は何をしでかすか分からんけぇ見張っちょらんと落ち着かんそっちゃ。」
お陰で仕事に手がつかんとご立腹。だがその怒った顔に熱い視線が注がれる。
桂がその視線を辿ると目を潤ませて見つめる三津と目があった。
「どうしたんだい?」
「こっ小五郎さんがお国言葉喋ってはるからっ……!」
感動してるんですと惚けた顔で愛おしいと言わんばかりの眼差しを向ける。
「待てや。それなら俺ずっと喋っとるやろが。」
「だから小五郎さんやないとアカンって言ってるないですか。」
聞き捨てならんと食ってかかる高杉に,三津は普段喋らない桂が喋ってるから意味があるんだと口を尖らせた。すると高杉は豪快に後頭部を掻きむしって溜息をついた。
「藩邸で見せつけんなや。
まぁいいわ,あと2日存分に思い出作らせてもらうけぇな。」
高杉は不敵に笑い,覚悟しとけと目で威した。
「晋作,もう充分だろ。」
桂の呆れたような言い方に高杉はかちんと来た。勢い良く立ち上がると桂に詰め寄った。
「充分?はっ!んな訳ないやろが!俺は生涯伴おうと思った女子と離れにゃならんのやぞ。
それがどんだけ辛いかは桂さんより三津さんの方が分かるやろな。
三津さん,俺が決めた事やけぇ女中の仕事は邪魔にならん程度に手伝う。
でも今は腹立った。収まるまで頭冷やしてくる。」
「あ!待って!」
「三津,追う必要はない。」
すぐさま追いかけようとした三津の腕を掴んで引き止めたが,三津は首を横に振ると桂の手を振り解いて高杉の背中を追った。
『まんまとつけ入られて……。』
桂は腕組みをして盛大に溜息をついた。あぁやって放っておけない相手に構うのも止めてほしい。
三津の優しい所は好きだ。だけど同情と愛情をごちゃ混ぜにしてしまわないか心配だ。
「高杉さん待って!」
「三津さんついて来んでいい。頭にきちょるけぇ何するか分からんぞ。」
怒りを孕ませた声。振り返りもせずズカズカ大股で先を行く。三津は小走りでついていく。
高杉の背中を見失わないようについてくのが精一杯。来た道も覚えてないからここで見失えば迷子だ。
それよりも今は高杉の心が心配だった。
「高杉さんは頭の切り替えも気持ちの切り替えも早いんですね。」
三津は羨望の眼差しを向けた。自分はどれほど色んな物に囚われていたか。
「悩んどっても時間は流れとるからのぉ。」
時間がもったいないとからから笑った。【你一定要知的植髮流程】解答植髮失敗風險高嗎?植髮痛嗎? -
「女子は悩みが尽きんのか?」
無邪気な顔で今度は三津の頭の上で手を弾ませた。
「そうですね。色々と。でも……高杉さん達みたいに世を変えようとしてる皆さんに比べたら些細な事です。」
考えてる事の大きさが違うと自嘲したら高杉は首を横に振った。
「悩みに大きいも小さいもない。悩みは悩みじゃ。頭ん中に居座って困らせとるのに違いはない。」
高杉らしい言い方に三津はそうですねと笑った。
まっすぐな性格同様のまっすぐな言葉は不思議なぐらいすっと心に染み込んでいった。部屋を飛び出した高杉は三津を探して藩邸内を駆け回る。
「サヤさん!三津さんどこや?」
「三津さんなら浴場のお掃除してはりますよ。」
「おう!ありがとう!」
庭先の掃除をする手を止めて教えてくれたサヤに手を振って浴場に向かった。
「三津さん!話がしたい!」
裾を捲し上げてしゃがみ込んで掃除をしていた三津は,高杉の勢いにビクッと肩を跳ねさせて口を半開きにして高杉を見上げた。
「お話?今?」
「今!あと人には聞かれたくないけぇ二人きりになれるとこはないか?藩邸内は誰が聞き耳立てちょるか分からん。」
「それなら藩邸出てすぐの河原なら……。今度は何が気になったんです?」
本当に思い立ったらすぐ行動なんだなと苦笑した。掃除を終わらすから待ってと言い聞かせててきぱきと掃除を終わらせた。
「聞かれちゃいけんけぇ静かに出るぞ。」
三津の手を引いて挙動不審にあちこちに視線を向けながら廊下を歩いた。
『ふざけてるのか真面目なんかどっちなんやろ。』
とりあえず付き合って気が済むのならそうするしかない。
「今度は何やらかしはるんやろ。」
忍び足で廊下を進む高杉と三津を,サヤは庭先からくすくすと笑って眺めた。
「すぐ戻るけぇ桂さん達には言うなよ!」
門番をしていた藩士に高杉はビシッと指を差して忠告して,さぁ河原に行けと三津に指示した。
「今度は何のお話ですか?」
「三津さんは稔麿庇って怪我したそ?」
「あぁ……。しましたね。新選組に捕縛されて拷問受けたんですよ。その話ですね?」
高杉は激しく首を縦に振った。
「桂さんは言葉を濁したそっちゃ。じゃけぇその話は本人以外が口にしちゃいけんような内容なんやろなって。」
『高杉さんなりに考えてはるんや……。』
「分かりましたお話しますよ。」
三津と高杉は河原に並んで腰を下ろした。
「拷問って……何されたん?」
「えっと殴られて蹴られて水の入った桶に顔浸けられたり……。途中から気絶しちゃって気付いたら斎藤さんの部屋で手当て受けてたんで覚えてたのは少しだけ。」
「怪我の程度は……。」
「左腕と肋骨が何本か折れてたみたいです。あとは口の中噛み切ってたのと全身痣だらけ。」
結構痛かったんですよと三津はへらへら笑った。高杉はまっすぐな目で三津を見ていた。
「誰がやったそ。それは。」
三津は眉を垂れ下げ困ったように笑った。
「土方さんです。副長さん。
元々その人に恩があって向こうの女中してたんですけどね。」
そしたら土方さんの女だと勘違いされて新選組に恨みのある奴らから命を狙われるわ,今度は土方に追われてた吉田を庇った事で長州の間者と疑われるわ。
でも長州の人間と分かっていながらその事実を隠して相反する者同士の間にいた自分の自業自得なんだが。
そう言って力なく笑っていると高杉の手が三津の頭に乗っかった。そして勢い良く撫で始めた。
「ありがとう!恩にきる!稔麿を助けてくれてありがとう!」
相変わらず顔は真顔で三津にはどんな感情を持って今こうしているのか理解出来なかったが感謝の言葉に照れ臭そうに笑った。
三津があの父親と壬生寺を後にしたのを子供達が見ている。
『私がどこへ行ったか聞かれたら,みんなあのお父さんの事言うんやろな。』
そうしたら,あの父親は詰問される。
“お三津はん…堪忍な…。” 快速瘦面
あの時の申し訳なさそうな声が三津の耳にこびりついていた。
『多分脅されてはったんやろな。
そうやないと絶対あんな嘘つかんよね。
普通の人が新選組に楯突くやなんて絶対出来ひん。』
土方の本気で怒る姿を想像すると体が震え上がる。
彼に悪気はなかったはず。
悪いのはホイホイとついて行った自分だ。
三津は自分を責めた。
「はぁ…。」
空になった湯呑みに視線を落として大きな溜め息をつく。
「俺と居るのはそんなに退屈?」
顎に手がかかり,吉田と近距離で顔を突き合わせ羽目に。
「そうやなくって…。」
「分かってるよ冗談。」
こんな時にこんな事しか言えず,吉田も溜め息をつきたくなった。
普段なら巡察から帰って来た者,これから行く者が腹ごしらえをする時刻。
近藤の部屋に幹部達は集まり,その中心には後ろで手を縛られたあの父親。
屯所では三津の予想通りの出来事が起こっていた。
「三津が子供の父親について行ったきり姿が見えない?」
土方の所へ泣きじゃくる子供の手を引いたたえが相談に来た。
「そう,お寺に呼びに行ったらおらんくて子供らがそう言うんです。」
“こいつの父ちゃんとどっか行ったんや。”って。
子供達は口を揃えてそう告げて,この子を指差した。
たえが見たありのままを聞いて土方は口角を上げた。
「はっ!いい度胸じゃねぇか。
その父親を探し出して連れて来るまで,それまでそのガキはうちで丁重に預かろうじゃねぇか。」
土方の顔見た子供は恐怖のあまり泣くのを止めた。
たえにしがみついてその背中に隠れる。
「たえ,今日の仕事はもういい。三津の部屋でそのガキの相手をしてろ。」
土方は刀を手に立ち上がると足早に部屋を出た。
「今手の空いてる奴,ついて来い!」
怒声を響かせながら廊下を行くと,その背中に暇を持て余していた隊士がぞろぞろ列をなした。
それから父親が屯所に連行されるまで時間はかからなかった。
そして今,部屋の真ん中にいる。
「で?うちの女中どうしてくれたんだ?」近藤と土方を前に,父親はぐっしょり汗を掻き,震えのせいでガチガチと歯が鳴る。
「どこの何奴に頼まれた,吐け。」
「それは分からんっ…,脅されてたんや,お三津はん連れて来な息子殺すや家に火を放つや言われたんやっ!
すんまへん…すんまへんっ!!」
父親は体を折り曲げ,畳に額を擦り付けて許しを乞う。
だが土方は父親の肩を掴み目を逸らす事すら許さなかった。
「知ってる事は全て吐け。」
「歳,彼にはゆっくり事情を聞くとしよう。
それより巡察の手配は普段通りでいいのか?」
そんな土方を宥めながら,近藤はちらっと幹部の面々を見渡す。
誰もが今すぐ飛び出せるといった顔で土方の指示を待つ。
「……巡察範囲を広げろ。
見廻組の縄張りなんか気にするな。
怪しいと思った輩はすぐ取り押さえろ。いいか?あくまで捕縛だ,斬るんじゃねぇぞ。
分かったか!総司!!」
「何で?何で私だけ名指しなんですか?」
おかしいですよね?と隣りの斎藤を肘でつく。
『さて教えてやるべきか……。』
総司本人はへらへら笑ってるつもりかもしれない。
『笑ってるなんてとんでもない。今すぐこの男を斬り殺したいって目をしてるのだが……。』
それでも総司は平静を装っているつもりらしい。
平静を装っているつもりの男がもう一人――。