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「だとしても意味は同じだ。結局苦しめてるのは私か……。参ったね。」
桂は自嘲した。三津は静かに涙を流しながら何度もごめんなさいと謝った。
「謝らないで。おいで,もっとちゃんと話そう。」
桂は三津の肩を抱いて海へ出た。誰の目にも入らない岩陰に三津を連れて行った。
「泣いていいよ。ごめんね,やっぱり私のやる事成す事全て裏目に出るね。
三津も九一も悪くないんだよ。惹かれ合う男女が求め合うなんて当たり前の事。それを禁ずるなんて酷だったね。
九一を萩に帰していいの?」 快速瘦面
「仕方ないです……。」
「そうじゃなくて,嫌かそうじゃないかで答えて。」
「……嫌です。」
そんなの分かっていた答えだが,改めて言葉にされるとグサッとくる。
「分かった。もうこの取り決めは破棄しよう。もう好きなようにしなさい。
でももし九一の子を宿しても,それは私の子になる。どんなに九一に似た子が産まれても父親は私だ。それでもいい?」
三津は涙を拭ってから桂を見上げた。
「血の繋がりのない子を養子に迎えても私達はその子の親になります。それと同じです。
そうやなくて,小五郎さんは私と九一さんが営むのが耐えられないんでしょう?」
「そうだね。君が誰かに抱かれるなんて想像もしたくない。でも三津の人生を奪った私がしてやれるのは,全てに目を瞑り自由にさせてやるしかないと思う。」
『人生を奪った?』
その言葉は三津の心にずしっときた。そう思った事などないから。ごめんねと眉尻を下げた顔で笑う桂に三津の胸は痛んだ。
「三津,九一との事はもう遠慮しなくていい。その代わり一人になるなんて言わないで。これ以上私からも離れないで。
わがまま言ってるのは重々承知してる。でも私も三津が居てくれないと,生きてる意味を感じないよ。
私への関心が薄れていても,三津が目の届く所で笑っていてくれたら私はもう満足だ。
妻の勤めも果たさなくていい。だから居なくならないで。」
突然姿を消された時の喪失感をもう味わいたくないんだ。手の届く所に居て欲しいと,三津を優しく抱きしめた。
「あぁ,やっと帰って来たと実感した。三津だ。三津の匂いだ。」
首筋を鼻先でくすぐられて身を捩るが離してはもらえない。
三津は遠慮がちに背中へと手を回した。
「二月もの間,お疲れ様でした。」
「三津も,頑張ったね。元周様に聞いた。戦場の近くで救護にあたってたと。あと私に会いたがっていたと伊藤君が言ってくれたけどそれは信じていい?」
「少しでもみんなの役に立てればと。
本当ですよ。だから自分で気持ちの板挟み状態を作って悩んだ挙句このザマです。」
それを聞いてようやく桂に声を上げて笑う余裕が生まれた。
「今からでも癒やしてもらうのは可能かい?」
「はい,何をしましょう?膝枕?」
「そうだね,戻って膝枕でもお願いしよう。その前に九一に伝えてやるよ。好きにしろと。どんな反応すると思う?」
「多分固まって動けなくなるかと。」
桂はだろうねと笑ってからかいに行こうかと三津の手を引いた。
二人が入江の部屋を尋ねると少し強張った顔を見せた。改めて入江と向かい合い,桂は咳払いを一つした。
「九一,これからの事を話す。」
入江は自分は受け入れる以外の選択肢がないのでと苦笑していた。でも萩へ帰れと言われるのが怖かった。
「これからは……好きに過ごせ。営みも口づけも,好きにしたらいい。」
「……は?」
口をあんぐり開けて固まった姿に桂は吹き出して三津は俯いて笑いを堪えた。
「私は三津が居なくなる方が怖い。前に味わった喪失感をもう一度味わうのは御免だ。お前との事を許すのも心苦しいが,その代わりもし身篭っても子は私の子だ。それは耐えられるか?」
「私の子でも後継ぎにするのですか?」
「お前の血なら優秀な子だろう。」
「木戸さん……この二月の間で何か変な物食べました?」
ぽかんとしながらも失礼な事を言うなと桂は若干顔の筋肉を引き攣らせた。それから咳払いをして三津を見た。
「九一と二人で話がしたい。」