[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「私には見ての通り左腕がない故、十二単のような、極端な重ね着など無理じゃ。重過ぎて、肩から袖が落ちてしまいまする」
「左様なこと、座ったままならば気になりませぬ。移動は輿を使えば良いのですから」
「まぁ、お菜津ったら。あげ足を取らないで。私は自分で、自分が着る衣装を仕立てたいのですから」
「では上様はどうなさるのです? 御台様とて、きっとお衣装ことでは何かお考えがございますでしょうし」
「父上様や母上様が、着る物のことで何か申して参ったら、にお断り致します」
「左様なご不孝な真似をされては…」【你一定要知的植髮流程】解答植髮失敗風險高嗎?植髮痛嗎? -
「お菜津。私はもう子供でないのです。もうじき、蘭丸様の妻になるのですから」
そう言って、胡蝶は蘭丸に微笑みかけた。
何か返事をねだるような、物欲しそうな目で胡蝶は蘭丸を見つめていたが、
蘭丸は恐縮しているのか、いは気恥ずかしいのか、微かに赤くなった顔を黙ってけた。
そんなところも可愛いと、胡蝶は心の中で思っていた。
自分が放った何気ないひと言や、ちょっとした仕草で、蘭丸が一喜一憂するのを見る度に、
胡蝶は彼からの愛情を感じ、しくもないのに、笑いたい程に嬉しくなるのだ。
だから、二人の婚儀が決まったと蘭丸から報告を受けた時も、胡蝶は振り構わず嬉し涙を流した。
それを見た蘭丸は、姫がショックを受けたと勘違いしていたようだったが、胡蝶は心の底から喜びを感じていた。
父や兄以外で、初めて心かよわせ、初めて恋心を抱かせてくれた男性と、内々でも夫婦という関係を築けるのだ。
胡蝶は嬉しいを通り越して、ないとすら感じていた。
「姫様。そんなに熱い眼差しを向けては、蘭丸殿のしいお顔に穴が空いてしまいますよ」
蘭丸を見つめ続けていた胡蝶に、お菜津がいたずらっ子のような顔付きで告げる。
胡蝶はハッとなり
「も…もう、お菜津ったら」
と思わず苦笑すると
「ず、これと、これと……それからこれも。目ぼしい布地には針を挿しておきまする」
動揺を誤魔化すように手早く反物を別け、側に置いてあったの裁縫箱に手を伸ばした。
ガタ…! ガタ…!
すると、どういう訳か針が納めてある二段目の引き出しが、どんなに引いても開かなかった。
何度が引っ張ってみるが、やはりかない。
「開かないのですか?」
難儀する胡蝶に蘭丸がねた。
「ええ、奥で何かがつっかえているようで。──お菜津、悪いが箱を押さえていてたもれ」
「は、はい」
お菜津が両手で裁縫箱を押さえると、胡蝶は右手に力を込めて、何度か押し引きを繰り返した。
すると、引き出しの奥でパキッと割れるような音がするなり、引き出しは軽々と手前に動いた。
求めていた針は引き出しの手前に納めてあったが、先程の割れるような音が気になって、
胡蝶は引き出しを全て抜くと、その空洞の奥をそっといてみた。
「まぁ…!」
胡蝶は声を上げるなり、空洞の中に手を入れる。
やがて引き抜かれた胡蝶の手には、高価そうなが握られていた。
しかし無惨にも、中心で真っ二つに割れている。
「姫様。それは確か、上様から致したものでは?」
「ええ…。無くしたとばかり思っていた物が、まさかこのような所から出て来ようとは」
「その櫛が奥で引っかかっておられたのですね。──その引き出しにお入れになったご記憶は?」
「あるような気が致します。夜更けまで仕立てをしていた時などに、誤って入れ間違えたことが以前にもある故」
「…壊してしまい、上様に怒られましょうか?」
お菜津が不安の面持ちでくと、胡蝶は軽く首を横に振った。
「数多く頂いた櫛の中の一つ故、父上様ご自身も覚えておられるかどうか──。
なれど、父上様にはちゃんとおびをしなくては。せっかく下さった物を壊してしまったのですから」
割れた櫛に触れながら、胡蝶がしんみりとして言うと
「──れながら、その櫛はどこでお求めになられた品か分かりますか?」
ふいに蘭丸が訊ねてきた。