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そこへ突然ゴトンと鈍い音がした

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そこへ突然ゴトンと鈍い音がした

そこへ突然ゴトンと鈍い音がした。コロコロと桜花の足元へ筆が転がってくる。それを拾い上げ、落とした主へ視線を向けた。

 

 そこには二本差しのキツネ顔の男が呆然とこちらを見ている。足元には墨やら硯やらが散らばっていた。

 

「あ、あの……。落としましたよ」

 

 桜花は男へ近づくと、快速瘦面 足元の物も拾おうと屈む。すると、凄まじい速さで男も屈むと桜花の手を取った。

 

 

「貴方ッ!な、な、名前はッ!?その格好からして、男であることは間違いないでしょうね」

 

「ひぃ……ッ!ちょ、離して下さい!」

 

 桜花はその剣幕に驚きと恐怖を感じ、堪らずに尻もちをつく。

 今にも食わんとばかりの形相に顔を引き攣らせた。

 

 そこへ呆れたように溜め息を吐きながら、松原がやってくる。

 

「大丈夫か、鈴さん。……武田はん、こん子は副長が八木家の使用人にと宛がった子ォや。手ェ出したらしばかれるで」

 

「使用人……。松原、お前には聞いておらん!私は、この麗しき人に聞いておるのだ!」

 

 

 松原と知り合いということは、この人も新選組なのかと桜花は察した。それならば変態扱いは出来ないと、視線は逸らしたまま口を開く。

 

……鈴木桜花といいます。よろしくお願いします」

 

「桜花……。なんて美しい名なのでしょう。私は、新選組で"副長助勤"をしておる、と申しますよ」

 

 武田は役職名を強調しながら名を名乗った。それに対して、桜花は愛想笑いを浮かべている。

 

 

──この人も副長助勤なのか。それでもあまり関わりたくないなぁ。

 

 

「ほら、さっさと手を離しィ。そないにガツガツ行くと嫌われるで」

 

 快活な声で言うと、松原は桜花の腕を引いて立ち上がらせた。それが武田の怒りを買ったのか、殺気を含んだ視線が向けられる。

 

 

「横恋慕は見苦しいぞ、松原。この人はもう私が目を付けたんだ。手を引け」

 

「横恋慕て……。別にワシは男に興味は無いんや。それよか、こないなところで油売っててええんか?局長の手伝いをする言うてへんかったか」

 

 

 その指摘に、武田はハッとすると地面に転がった物を急いで拾い集めるなり去っていった。

 

 まるで嵐のような人だと、桜花は息を吐く。 武田と入れ替わりになるように、パタパタと足音を立てて藤堂が戻ってきた。

 

「お待たせ〜!女将さんの許可を取ったよッ。……あれ?二人とも疲れた顔なんてしちゃってどうしたのサ。早く道場行こう」

 

 その声と笑顔に何処か癒される心地を感じながら、桜花は落ち葉をまとめて箒を片付けると、藤堂らについて行く。

 

 

 道場の中は変わらず熱気に包まれており、小気味よく竹刀の打ち合う音が響いていた。

 

 藤堂は防具と竹刀を持ってくるなり差し出す。

 

「はい!これ、使ってねッ」

 

 桜花はそれを受け取ると、身に付けた。竹刀を手にした途端、沖田との試合にて為す術なく吹っ飛ばされた記憶が蘇る。

 

 

──どうしよう。もしまた負けてしまったら。私にはこれしか無いのに。

 

 無意識のうちに竹刀を固く握り締めた。不安に思ってしまえば、後はどつぼにハマっていく。

 

 未来に居た時に、一度だけ試合に負けたことがある。その時に周囲から受けた失望の視線や、心無い言葉がありありと脳裏に浮かんでは消えた。いくら強くなろうとも、受けた心の傷は中々癒えないものである。

 

 

──嫌だな、どうして今思い出してしまったんだろう。勝手に期待して、勝手に失望した人たちのことなんか思い出したくなかったのに。

 

 

 胸の中はざわめき、息苦しさすら覚えた。深呼吸をして何とか自分を保つ。

 

 竹刀を手にしたまま立ち竦んだ桜花の顔を、藤堂が覗き込んだ。

 

 

「おーい、鈴木?時間も無いし、もう始める?」

 

「あ……

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