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「私には見ての通り左腕がない故、十二単のような、極端な重ね着など無理じゃ。重過ぎて、肩から袖が落ちてしまいまする」
「左様なこと、座ったままならば気になりませぬ。移動は輿を使えば良いのですから」
「まぁ、お菜津ったら。あげ足を取らないで。私は自分で、自分が着る衣装を仕立てたいのですから」
「では上様はどうなさるのです? 御台様とて、きっとお衣装ことでは何かお考えがございますでしょうし」
「父上様や母上様が、着る物のことで何か申して参ったら、にお断り致します」
「左様なご不孝な真似をされては…」【你一定要知的植髮流程】解答植髮失敗風險高嗎?植髮痛嗎? -
「お菜津。私はもう子供でないのです。もうじき、蘭丸様の妻になるのですから」
そう言って、胡蝶は蘭丸に微笑みかけた。
何か返事をねだるような、物欲しそうな目で胡蝶は蘭丸を見つめていたが、
蘭丸は恐縮しているのか、いは気恥ずかしいのか、微かに赤くなった顔を黙ってけた。
そんなところも可愛いと、胡蝶は心の中で思っていた。
自分が放った何気ないひと言や、ちょっとした仕草で、蘭丸が一喜一憂するのを見る度に、
胡蝶は彼からの愛情を感じ、しくもないのに、笑いたい程に嬉しくなるのだ。
だから、二人の婚儀が決まったと蘭丸から報告を受けた時も、胡蝶は振り構わず嬉し涙を流した。
それを見た蘭丸は、姫がショックを受けたと勘違いしていたようだったが、胡蝶は心の底から喜びを感じていた。
父や兄以外で、初めて心かよわせ、初めて恋心を抱かせてくれた男性と、内々でも夫婦という関係を築けるのだ。
胡蝶は嬉しいを通り越して、ないとすら感じていた。
「姫様。そんなに熱い眼差しを向けては、蘭丸殿のしいお顔に穴が空いてしまいますよ」
蘭丸を見つめ続けていた胡蝶に、お菜津がいたずらっ子のような顔付きで告げる。
胡蝶はハッとなり
「も…もう、お菜津ったら」
と思わず苦笑すると
「ず、これと、これと……それからこれも。目ぼしい布地には針を挿しておきまする」
動揺を誤魔化すように手早く反物を別け、側に置いてあったの裁縫箱に手を伸ばした。
ガタ…! ガタ…!
すると、どういう訳か針が納めてある二段目の引き出しが、どんなに引いても開かなかった。
何度が引っ張ってみるが、やはりかない。
「開かないのですか?」
難儀する胡蝶に蘭丸がねた。
「ええ、奥で何かがつっかえているようで。──お菜津、悪いが箱を押さえていてたもれ」
「は、はい」
お菜津が両手で裁縫箱を押さえると、胡蝶は右手に力を込めて、何度か押し引きを繰り返した。
すると、引き出しの奥でパキッと割れるような音がするなり、引き出しは軽々と手前に動いた。
求めていた針は引き出しの手前に納めてあったが、先程の割れるような音が気になって、
胡蝶は引き出しを全て抜くと、その空洞の奥をそっといてみた。
「まぁ…!」
胡蝶は声を上げるなり、空洞の中に手を入れる。
やがて引き抜かれた胡蝶の手には、高価そうなが握られていた。
しかし無惨にも、中心で真っ二つに割れている。
「姫様。それは確か、上様から致したものでは?」
「ええ…。無くしたとばかり思っていた物が、まさかこのような所から出て来ようとは」
「その櫛が奥で引っかかっておられたのですね。──その引き出しにお入れになったご記憶は?」
「あるような気が致します。夜更けまで仕立てをしていた時などに、誤って入れ間違えたことが以前にもある故」
「…壊してしまい、上様に怒られましょうか?」
お菜津が不安の面持ちでくと、胡蝶は軽く首を横に振った。
「数多く頂いた櫛の中の一つ故、父上様ご自身も覚えておられるかどうか──。
なれど、父上様にはちゃんとおびをしなくては。せっかく下さった物を壊してしまったのですから」
割れた櫛に触れながら、胡蝶がしんみりとして言うと
「──れながら、その櫛はどこでお求めになられた品か分かりますか?」
ふいに蘭丸が訊ねてきた。
満面に浮かぶ信長の気楽そうな微笑みに、濃姫はどこか救われる思いがした。
「三保野に叱られました。あのような厳しい態度ばかりとっていると、殿に愛想をつかされてしまうと。
私が明け透けに物申せるのは、相手が信長様であるが故じゃと」
「ははは、確かに。それはそうやも知れぬなぁ」
「もしもこれが尋常な殿御ならば、殿は今頃そく──」
濃姫は側室の件を言いかけて、そのまま唇を口内に押し込むようにキュッと口をつぐんだ。
「“そく”、何じゃ?」快速瘦面
「あの、いえ……そ、即、離縁していたであろう…と、そう言われて」
「離縁? これしきの事で随分と大袈裟な言い様じゃな」
「三保野はそういうおなごなのです。忠実ですが、とかくお節介焼きで、小賢しいの侍女なのです」
「忠実だが節介焼きで、小賢しい…、まさにそなたの事じゃな」
きっと主人に似たのであろうと信長は笑った。
「まぁ、少なくとも私は三保野のような昼行灯ではございませぬ」
濃姫がぷいっと顔を背けると、橋の袂(たもと)で他の侍女たちと共に控えていた三保野本人と目が合った。
「ゴホンッ」と咳払いをする三保野の膨れっ面を見て、濃姫と信長は弾(はじ)けたように笑った。
やはり殿とは…この先も、こうやって笑い合っていたい。
仲違いをしても、歪み合うても、その末には必ず、こうして笑顔と笑顔を向け合える夫婦でいたい。
濃姫は心からそう思った。
「殿に一つ、お願いがございます」
「願いとな」
「このような事を申すのは厚かましい限りやもしれませぬが、どうか……どうかいつまでも、濃だけの殿でいて下さいませ」
「急に何を申すのだ」
「私は必ず、今よりももっと良き妻になります。いずれ必ず殿のお世継ぎも産んでみせます故、どうか…いつまでも濃の側にいて下さいませ」
口調こそ静かなものであったが、信長に当てられた濃姫の眼差しは必死そのものだった。
何もこんな曖昧な言葉を告げたかった訳ではない。
本当は、側室などお持ちにならないで下さいませ、と声を大にして叫びたかった。
が、僅かながらの理性と、那古屋城主の正室という立場がそれを制していた。
濃姫は、今の自分が口に出来る最大限の無礼で、その内なる想いを信長に伝えようとしているのだった。
「……」
信長は妻の想いを察したのか、逆に察し切れなかったのか、彼はひどく深刻そうな表情で姫を見つめると
「─お濃」
何か言いたげに唇を軽く上下させながら、そっと姫の艶やかな黒髪を撫でた。
髪に触れる信長の手は、宝物を扱うように優しかったが、信長の口からはそれ以上言葉が漏れることはなかった。
まるで蟠(わだかま)りが残るような、居心地の悪い空気が二人の間に流れた時
「ご無礼つかまつります──」
池田(勝三郎)恒興が小走りにやって来て、信長の足元に控えた。
信長の手が唐突に姫の頬から離れ、彼は狼狽顔で己の乳兄弟に目をやった。
「恒興か。何用じゃ?」
「殿、急ぎ御書院の方へお出座し下さいませ。守山城より織田信光様がお越しにございます」
「叔父上が?」
「是非とも殿のお耳に入れたき、大事なる報を持って参られた由」
「報じゃと」
信長の細く整えられた眉が、一瞬ぴくりと波打った。
このような時分での、それも火急の訪問である。
大方今川か、または此度の清洲の一件が絡んでいるのであろうと察した。
が、大事なる報とは何であろう…。
「儂の心が揺るがぬ限り、そなたの忠節が疑われる事はない。安堵致せ」
「…その言の葉を、信じてもよろしいのでしょうか?」
「その判断とて、そなたの自由じゃ」
産毛を剃って更に美しさに磨きのかかった信長の面差しに、子供っぽい無邪気な微笑みが浮かんだ。
濃姫は、凝り固まった自分の心が、信長の笑顔と、気遣いにも似た優しさとで一気に和らいでいくのを感じた。
いつしか姫の顔は、微笑む信長と同じ表情になっていた。【你一定要知的植髮流程】解答植髮失敗風險高嗎?植髮痛嗎? -
「……信じまする。殿がそう仰せになるのでしたら、濃は信じまする」
「ん。それで良い」
信長は満足そうに首肯すると、姫の肩に置いていた両の手を、そのまま相手の背に回した。
濃姫は夫の腕に包まれながら、ふっと、自嘲気味な笑みを漏らした。
行き着く先はいつも同じだ。
どんな困難や悩み事が降りかかろうとも、その解決策は、信長を想う自分の心。
そして堅固な信念だけ…。
それを分かっていながら、つい心の弱さを見せてしまうのは、こちらが差し向ける難題に、
夫がどう答え、どう対応するのかを確かめてみたいという、おなごの浅はかさ故であろうと濃姫は思った。
そんな真似が出来る程、今の自分は幸せなのであろうと。
「──殿」
「何じゃ?」
「いつか、父上様に会いとうございます」
「会えるであろう。その時が来たら、儂が席を設けてやろうぞ」
「それはいつにございますか?」
「今言うたではないか。その時が来たらじゃ」
信長が濁すように言うと、濃姫は一瞬呆れたような表情を見せた後、それでも満足だと言わんばかりの柔和な微笑を漏らした。
「では、気長にお待ちしておりまする」
駿河、遠江、そして三河をもその手中に治めた大大名・今川義元が尾張へ侵攻して来たのは、
信長が道三との会見を果たした翌天文二十三年(1554)の正月の事であった。
鴫原(しぎはら)にある重原城の主・山岡伝五郎を攻め滅ぼした今川軍は、続いて水野金吾(忠分)がおわす緒川城の攻略を目論んで、
信長の居城・那古屋城から僅か二十キロの村木の地に砦を築き、立て籠ったのである。
付近にある寺本城は織田方に属していたが、人質を差し出して今川軍に寝返り、
信長の那古野城と緒川城との間にある道を遮断したのである。
これらの知らせを受けた信長は、直ちに林秀貞、内藤勝介ら重臣たちをひと間(ま)に集めて軍議を執り行った。
信長を始めとする慧眼な男たちが、皆々厳めしい表情で一計を捻り出していった結果
「陸路が無理ならば、海路をいくのは如何であろうか?」
「左様。船を使こうて海を渡れば、寺本の城を避けることも叶いまする」
「それならば、今川勢のおわす村木の砦へは背後よりの攻撃を──」
との意見が出され、信長の考えも相俟って以上のように採決されたのである。
信長は粗方の話し合いを済ませると、何を思ったのか、直ぐ様その足で奥御殿の濃姫の部屋へと向かった。
悪戯を思い付いた幼子のような、妙に生き生きとした表情で──。
「美濃の兵を? では殿は、父上様に援軍をお頼みあそばされるのですか !?」
「されど、殿。かような真似は、今回限りになされませ」
と、妻らしく忠告を入れた。
「平手殿も他の皆々も、いつ戦で命を落とすやも知れぬ…そんな死と隣り合わせの中で、懸命に殿にお仕えなされているのです。
左様な方々のお心を試すような真似は、これきりにして下さいませ」
「それくらいの事──そちに言われずとも分かっておるわ」
「それならばよろしゅうございます」快速瘦面
濃姫は、ふっと穏やかな微笑を湛える。
「…それから殿、平手殿の件でございますが」
「何じゃ」
「あのお方ならば、きっと大丈夫でございます。あなた様が赤子の頃より、ずっと殿一筋で生きて参られたお方ですもの。
近い内に、ご子息の駿馬を伴って現れ、殿に揺るがぬ忠心をお示し下さりましょう」
「……」
「平手殿をお信じなされませ」
憂う夫を励ますかのように、濃姫はこっくりと頷いた。
そんな姫を見据えている、信長のきつく強張った表情が、ほんの少しだが緩みを見せた。
やおら彼は、ははっと低い声で笑うと
「お濃よ」
「はい」
「何回も言わせるな。それくらいの事、そちに言われずとも分かっておる。平手の爺の事ならば特にな」
「それはそれは。まことに失礼つかまつりました」
「まったく…。そちのせいで、狩りに出向くのがすっかり遅れてしもうたわ」
信長はそう言って、安堵を得た面差しに、にっと白い歯を覗かせるのだった。
しかし、そんな安堵もほんの束の間…。
五郎右衛門への説得が思うようにいかなかったのか、はたまた政秀自身が信長の駿馬献上の意図に気付いていないのか、
それから幾日経とうとも、政秀が信長に馬を献上する気配は一向に訪れなかった。
こうなると信長の方も引くに引けず、初めに無礼な態度で駿馬献上を断った五郎右衛門との不和を理由に、あえて政秀との距離を置き続けた。
だが、この選択により更に状況は悪化。
気付いた頃には、この頑固な主と生真面目な傅役はすっかり疎遠となってしまったのである。
この思いがけない事態には、濃姫も当惑してしまい
『 このままではならぬ…。家督を継がれたばかりの殿には、それこそ平手殿のような、心利きたる優れた御重臣が必要じゃ 』
『 何としてでも政秀殿に、殿のご本心にお気付きいただき、一日も早くご関係の修復に努めていただかねば 』
と、焦りを募らせるのだった。
そんな最中──
「山口教継殿、及び教吉(のりよし)殿が御離反!東国へ逃亡の由にございます」
予てより懸念の内にあった鳴海城主・山口教継が、子の教吉共々織田家から離反し、駿河の今川義元に寝返ったのである。
修築した笠寺城に葛山長嘉、三浦義就、岡部元信ら今川勢を引き入れた教継は、鳴海城を教吉に守らせ、自身は桜中村城に立て籠もった。
これを受け、翌天文二十一(1552)年四月十七日、信長は八百の兵を率いて那古屋城を出陣。
対して、鳴海城を守っていた教吉は千五百の兵で赤塚に出陣し、これを知った信長勢も同地に進軍して戦闘を行ったのである。
「だとしても意味は同じだ。結局苦しめてるのは私か……。参ったね。」
桂は自嘲した。三津は静かに涙を流しながら何度もごめんなさいと謝った。
「謝らないで。おいで,もっとちゃんと話そう。」
桂は三津の肩を抱いて海へ出た。誰の目にも入らない岩陰に三津を連れて行った。
「泣いていいよ。ごめんね,やっぱり私のやる事成す事全て裏目に出るね。
三津も九一も悪くないんだよ。惹かれ合う男女が求め合うなんて当たり前の事。それを禁ずるなんて酷だったね。
九一を萩に帰していいの?」 快速瘦面
「仕方ないです……。」
「そうじゃなくて,嫌かそうじゃないかで答えて。」
「……嫌です。」
そんなの分かっていた答えだが,改めて言葉にされるとグサッとくる。
「分かった。もうこの取り決めは破棄しよう。もう好きなようにしなさい。
でももし九一の子を宿しても,それは私の子になる。どんなに九一に似た子が産まれても父親は私だ。それでもいい?」
三津は涙を拭ってから桂を見上げた。
「血の繋がりのない子を養子に迎えても私達はその子の親になります。それと同じです。
そうやなくて,小五郎さんは私と九一さんが営むのが耐えられないんでしょう?」
「そうだね。君が誰かに抱かれるなんて想像もしたくない。でも三津の人生を奪った私がしてやれるのは,全てに目を瞑り自由にさせてやるしかないと思う。」
『人生を奪った?』
その言葉は三津の心にずしっときた。そう思った事などないから。ごめんねと眉尻を下げた顔で笑う桂に三津の胸は痛んだ。
「三津,九一との事はもう遠慮しなくていい。その代わり一人になるなんて言わないで。これ以上私からも離れないで。
わがまま言ってるのは重々承知してる。でも私も三津が居てくれないと,生きてる意味を感じないよ。
私への関心が薄れていても,三津が目の届く所で笑っていてくれたら私はもう満足だ。
妻の勤めも果たさなくていい。だから居なくならないで。」
突然姿を消された時の喪失感をもう味わいたくないんだ。手の届く所に居て欲しいと,三津を優しく抱きしめた。
「あぁ,やっと帰って来たと実感した。三津だ。三津の匂いだ。」
首筋を鼻先でくすぐられて身を捩るが離してはもらえない。
三津は遠慮がちに背中へと手を回した。
「二月もの間,お疲れ様でした。」
「三津も,頑張ったね。元周様に聞いた。戦場の近くで救護にあたってたと。あと私に会いたがっていたと伊藤君が言ってくれたけどそれは信じていい?」
「少しでもみんなの役に立てればと。
本当ですよ。だから自分で気持ちの板挟み状態を作って悩んだ挙句このザマです。」
それを聞いてようやく桂に声を上げて笑う余裕が生まれた。
「今からでも癒やしてもらうのは可能かい?」
「はい,何をしましょう?膝枕?」
「そうだね,戻って膝枕でもお願いしよう。その前に九一に伝えてやるよ。好きにしろと。どんな反応すると思う?」
「多分固まって動けなくなるかと。」
桂はだろうねと笑ってからかいに行こうかと三津の手を引いた。
二人が入江の部屋を尋ねると少し強張った顔を見せた。改めて入江と向かい合い,桂は咳払いを一つした。
「九一,これからの事を話す。」
入江は自分は受け入れる以外の選択肢がないのでと苦笑していた。でも萩へ帰れと言われるのが怖かった。
「これからは……好きに過ごせ。営みも口づけも,好きにしたらいい。」
「……は?」
口をあんぐり開けて固まった姿に桂は吹き出して三津は俯いて笑いを堪えた。
「私は三津が居なくなる方が怖い。前に味わった喪失感をもう一度味わうのは御免だ。お前との事を許すのも心苦しいが,その代わりもし身篭っても子は私の子だ。それは耐えられるか?」
「私の子でも後継ぎにするのですか?」
「お前の血なら優秀な子だろう。」
「木戸さん……この二月の間で何か変な物食べました?」
ぽかんとしながらも失礼な事を言うなと桂は若干顔の筋肉を引き攣らせた。それから咳払いをして三津を見た。
「九一と二人で話がしたい。」